レスリング選手

【齊藤将士】選手自身が決断し行動するチームに。本質的な指導で強い日大を創り上げる。

オリンピックや世界選手権で活躍する数々の名選手を輩出してきた日本大学レスリング部。長い歴史と伝統を誇るこの強豪チームに、2023年4月、新たな風が吹くことになりました。元トップレスラーであり現在は指導者として活躍する齊藤将士さんのコーチ就任です。

自身の競技経験を活かし、「学生が自分で考え、行動できる主体性を育てたい」という信念を胸に、歴史ある風習を尊重しつつも新しい指導法を取り入れています。学生たちが自ら道を切り開き、成長していく姿を目指し、齊藤さんはチームの強化に挑んでいます。

今回のインタビューでは、齊藤さんがどのような思いで指導に取り組んでいるのか、そして日大レスリング部をさらなる高みへ導くためのビジョンについて詳しく伺いました!

齊藤将士さんのプロフィール

  • 秋田県出身
  • 秋田経法大附高(現・ノースアジア大学明桜高校)・日本大学卒業
  • 日本大学大学院修了
  • 2024年4月より日本大学レスリング部の監督を勤める

父の影響で気づけばマットに。レスリング漬けの毎日を過ごしトップ選手まで登り詰める。

ーーー最初に齊藤さんのレスリング現役時代の経歴を教えてください。

レスリングを始めたのは3歳のときです。

父親が日本大学出身の元レスリング選手で、当時は秋田経済法科大学付属高等学校(現在のノースアジア大学明桜高等学校)の教員をしながら、レスリング部の監督をしていました。

子守りを兼ねてだと思うんですが、よく練習に連れて行かれていたんです。気づけばマットに立っていて、「あれ?俺、戦ってるな」って(笑)。

正直、自分から「やりたい!」って始めたわけじゃないんです。でも、小学校4年生と6年生、中学校3年生のときに全国大会で優勝できて。そして、中3のときは全国大会で優勝したことで韓国遠征にも行かせてもらったんです。その遠征がきっかけでレスリングにどっぷりハマりましたね。

「レスリングで世界と戦いたい」「オリンピックチャンピオンになりたい」そう思うようになったのはその頃からです。

その後、父親が指導していた秋田経済法科大学附属高等学校に進学しました。高校3年生では選抜、インターハイ、全国グレコ選手権で優勝。高校4冠を狙って国体に臨んだんですが、準決勝で負けてしまって3位でした。この負けが本当に悔しくて、「もっと練習しないと」と思い、日本大学へ進学しました。

大学に入ってからは階級を上げて挑戦しました。最初の頃はなかなか勝てなくて本当に悩みましたね。そんなとき、当時の日大の監督だった富山先生がよく「悩むより体を動かせ。動かないと何も生まれないよ」と言ってくれたんです。この言葉に支えられて、大学4年間はレスリング漬けの日々を過ごしましたね。

その結果、インカレで優勝、明治杯で2位という成績を残すことができました。

大学卒業後は警視庁に就職して、北京オリンピックを目指しました。2007年にはアジア選手権で優勝して、そこから一気にオリンピック出場を決めたいと思っていたんですけど、国内予選で負けてしまって。

レスリングが好きだし、自分の人生にはずっとレスリングがありました。目標を達成していないのに、ここでやめるのは嫌だと思って、1年1年考えながら競技を継続しました。しかし、2009年の天皇杯で勝ち切ることができなくて、そこで現役を引退することを決めました。

急に舞い込んだ指導者の話。「自分で決断させる」スタンスで主体性ある選手を育てる。

ーーー目標達成に届かなかったものの諦めずレスリングに真摯に向き合う姿勢が感じられました。現在は指導者として活動されていますが、もともとはどのようなきっかけで指導をすることになったのですか?

現役を引退し、「よし、これから警察官として頑張ろう!」と思っていたとき、急に「全日本女子のコーチをやってみないか」っていうお話をいただいたんです。

警察官として一から頑張ることを決意した矢先だったので迷いましたが、すぐに決める必要があったので、妻にも相談して深く考えました。でも、どう考えても自分自身の本心はレスリングが好きで、「レスリングで生きていきたい。ここで断れば一生後悔する。」っていう気持ちがあったんです。だから、全日本女子のコーチを引き受けることにしました。

ーーー実際に全日本女子のコーチをやってみてどうでしたか?

全日本女子コーチ時代の齊藤将士さん
全日本女子コーチ時代の齊藤将士さん(後ろ左から2番目)

女子の距離感が独特だなって思いました(笑)。会話の中で普通に「違うしー!」って言われたり、指示を出したときに「はー!?」って逆ギレされたり。「俺、友達?」って思うことが何回もありましたね(笑)。

まあその掛け合いがまた面白かったんですけど。

正直、不安はあったんですけど、最初の3年間はいろんな人の指導法を見て勉強しました。当時の私は情熱とか勢いだけで、指導方法はまったくわからなかったですからね。

いろんな先生の指導を見るなかで、「自分は肩肘張らずに指導しよう」と決めて、今でもそのスタンスをさらに色濃くしていくというのが目標です。

ーーー「肩肘張らない」というスタンスは具体的にどのようなことを心がけた指導になるのでしょうか?

学生が主体となって練習を作り上げていく
学生が主体となって練習を作り上げていく

選手自身に「自分で決断させる」これを心がけています。

私はやらせるのがあまり好きじゃなくて。でも、実際問題やらせないと強くなれないこともあります。だから、毎日毎日その葛藤をしています。

ただ、だからといって無理やりやらせても、心が入らない・魂が入らない練習となり、本物の技の習得や強さを身につけることはできないと考えています。

だから、私はよく学生と会話をするようにしています。チームの状況について「どう思う?」って聞いてみたり、練習メニューについて「今日何やりたい?」って聞いてみたり。私自身が必要と思うこと、プラス学生がやりたいことを入れ込みながらメニューを作っていくという感じです。

あと、学生に対して問いかけをすることもよくあります。「今の練習やってるの?やらされてるの?」とか。

スパーリングをする際も、集中力に欠けた雰囲気を感じたときは、学生の状況を確認するようにしながら、集中力のスイッチを切り替えるアドバイスをしていますね。状況によっては別メニューを実施させるなど、柔軟に対応をしています。

自分自身で決断させることで怪我の予防にも繋がります。怪我から学ぶこともたくさんあるけど、しなくて良いならしない方がいいですからね。

このような感じで、「自分で考えて自分で決断させる。そして行動させる」ということを心がけています。

ーーー学生も主体性を持って練習に取り組めそうですね。どうしてもやらせなきゃいけない練習があるとき、選手にはどう指示出しをしていますか?

なぜ今からこれをやるのか、理由はちゃんと説明するようにしています。

ちゃんと理由を言わずに「これやれ、あれやれ」だと、それはやらせてることになると思うんです。だから、選手が納得できるように、その練習をする理由を説明は事前にするようにしています。

ーーー正直な話、どのチームにも自主性が見られない選手もいるのかなって思います。そういった人が目立つ場合、齊藤さんはどのような対応をしていますか?

自らKJ法でチームの課題解決に取り組む日本大学レスリング部
自らKJ法でチームの課題解決に取り組む日本大学レスリング部

私自身の指導も重要ですが、学生たち自身で解決してもらうようにしています。

方法は数多くありますが、具体的には、KJ法という手法を使って、付箋に一人ひとりの意見を書いてもらうようにしています。「私生活」や「レスリング」「その他」など棲み分けをして、それぞれ「これが必要」や「これじゃあダメだ」など、みんなの意見を書いて可視化していくというものです。

私が現場に介入し始めた頃のことですが、「朝練でない人がいる」とか「サボっている人がいる」とか、みんないろんな意見を出してくれました。この手法を活用して、現在では改善されています。

KJ法をやるとみんなが思っていることがよくわかって、何をどうすべきかがわかるようになるんです。

最初は私が指示してやってもらっていたんですけど、大会終了後に主将が自らKJ法を使ったミーティングをやっていて。「大したもんだな。頑張ってるな。」と素直に思いました。

あと、「何を言っても響かない」みたいな人もなかにはいるかもしれないんですけど、それは響かないタイミングで言っているから響かないのかなって考えています。

「コーチとしてすぐにどうにかしたい」って思うこともあるけど、そういうときもグッと我慢して然るべきタイミングを待つようにしています。「我慢するのも指導者の能力」だと思っていますからね。

競技に真摯に向き合い厳しい私生活を送る。それが人生の自信に繋がる。

ーーー齊藤さんの指導スタンスについてよく理解できました。ありがとうございます!現役時代もトップ選手として活躍されていましたが、その経験が今の指導に生きていることってありますか?

現役選手時代の齊藤将士さん
現役選手時代の齊藤将士さん

やっぱり真摯にレスリングに向き合うことですね。

学生にもよく伝えているんですけど、私生活が乱れている人は最後は勝ちきれないと感じています。レスリングにも影響が出るものだと思うんですよね。常にレスリングのことを考えるほどに真摯に向き合うことで勝ち切れるようになると考えています。

試合ってのは人格と人格の勝負ですからね。技云々ではなく、その人の生活がそのまま出ますから。

要は生き方です。レスリングはスポーツだから結果が伴わないこともあります。でも、レスリングに真摯に向き合うという生き方を大学の4年間続けることで、「自分自身はやったんだ」と自信に繋がり、その後の人生にも良い影響を与えてくれると思います。

2024年に4年ぶりに箱根駅伝出場を決めた日大の陸上競技部の監督さんと話したことがあるのですが、同じように「私生活の指導が重要」と言っていました。朝練2時間・午後練2時間だとしても、一日は残り20時間あります。この残りの時間をどう使うか、どれだけ競技のことで使えるかで成長が変わります。そういうところに着目することが重要であると。

それを聞いて、これが本質かなって思いました。

自分の生き方を大切にしつつ「強い日大」「魅力ある日大」を作る。それが人生の目標。

ーーー確かに本質ですね。最後に齊藤さんの今後の目標や展望をお聞かせください。

日本大学レスリング部
日本大学レスリング部

「強い日大、魅力ある日大の構築。」。そのために、人生を掛けて選手の育成と強化にあたり、世界チャンピオン、オリンピックチャンピオンを必ず輩出する。これが私の目標です。

このような過程で、社会性が高く、社会の即戦力となる人材を育成することにも重きを置いて指導ができればなと考えています。

私が死んだときに、「あの先生はレスリングや選手のために尽くしてたよね」や「レスリングに一生懸命だった」なんて言われたら嬉しいですね。

「生き方」を大切にして、学生達と共に成長していきたいです。

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