「感覚で動いている方が強いと思うんです。」
そう語る須田宝選手は、自身でも「感覚派」だと認めるレスラーです。2025年天皇杯の準決勝で見せたラスト5秒の逆転劇のように、考えるより先に体が動く。その瞬間にこそ、自分らしいレスリングがあると捉えています。
ただ、感覚だけで戦っているわけではありません。練習では、自分の技が警戒された先に何を出すかまで考え、階級を上げた今はフィジカルや体力といった課題にも向き合っている。感覚と積み重ね、その両方を武器に前へ進んでいます。
最終目標は、オリンピックで金メダルを獲ること。今回はフリースタイル65kg級・須田宝選手に、レスリングとの出会い、本気で向き合うようになったきっかけ、そして自分だけのレスリングをつくっていく現在地について話を聞きました。
須田宝選手の経歴
- 長崎県出身
- 鳥栖工業高校卒業
- 現在は山梨学院大学所属
- 2024年全日本学生選手権優勝
- 2024年全日本大学選手権優勝
- 2024年全日本選手権優勝
- 2025年アジア選手権優勝
兄の背中を追い、鳥栖工業を目指した中学時代。全中優勝で「本気」が現実になった。
ーーーレスリングを始めたきっかけと、本気で取り組もうと思ったタイミングを教えてください。
最初はレスリングではなく相撲をやっていました。2個上の兄と一緒に地区の相撲大会に出たのですが、兄が小さい体ながら大きい相手に勝っていたんです。
そんな兄から「レスリングを一緒にやろう」と誘われたのがきっかけでした。
でも最初からレスリングが好きだったわけではなくて、むしろ一時期は結構嫌でした。嫌々続けていた時期もあったんですけど、勝てるようになってから少しずつ「頑張ろう」と思うようになりました。
自分が中学1年生の時、兄が全中で優勝して、「自分も優勝したい」と思ったんです。兄はそのまま鳥栖工業に進学して、自分もそこに行きたいと思うようになって。そこから本当にレスリングを本気でやり始めました。
最終的に自分も中学3年生の時に優勝できて、鳥栖工業に進むことができました。
感覚7割、思考3割。考えすぎないからこそ出せる、自分だけのレスリング。
ーーー山梨学院コーチの高橋さんから「須田選手は超感覚派だ」と聞きました。自分ではどんなレスリングだと捉えていますか?

そうですね。周りからもそう言われるのですが、自分でも感覚派だと思います。
もちろん考えながらやっている部分もあるんですけど、試合では本当に体が勝手に動くような感覚になることがあります。2025年天皇杯の準決勝で田南部選手とやった時のラスト5秒の逆転も、考えて動いたというより、本能に近いような感覚でした。
海外の試合でも逆転した場面が何回かあるんですけど、そういう時って本当に体が勝手に動いて、今まで一回もやったことがないような技が出たりするんです。自分の中では、それがゾーンみたいなものなのかなと思っています。
緊張して体が動かなくなるより、そうやって感覚で入れている時の方が自分は強いんじゃないかなと思っています。
ーーーその感覚は、普段の練習でも大切にしているのでしょうか?

練習でも少しは考えているんですけど、感覚7割、考えているのが3割くらいです。自分の中ではそのバランスが合っているのかなと思います。
いつからそうなったのかは正直わからないんですけど、高校の頃から先生には「本能レスラー」と言われていました。だから昔からそういうタイプだったのかもしれないです。
技が警戒されたその先まで考える。練習で磨く引き出しの多さ。
ーーー普段の練習では、どんなことを意識していますか?
自分は技は多い方かなと思っているんですけど、同じ技ばかりやっているとだんだん相手にも警戒されて、かからなくなってきます。
だから練習では、「これが警戒されたら次に何をやるか」「これがかからなくなったら次は何を出すか」ということを結構考えています。相手がこう反応してくるなら、その次はこれ、みたいな感じです。
感覚派ではあるんですけど、何も考えていないわけではなくて、技のつながりや次の展開は意識しながらやっています。
ーーーオフの日でもレスリングのことを考えることはありますか?
自分ではそんなに意識していないつもりなんですけど、周りからは携帯でずっとレスリングを見ているって言われます。
オフの日は寝ているか、どこかに出かけていることが多いんですけど、気づいたらレスリングを見ているみたいで。自分では無意識なんですけど。
球技とか他のスポーツは全然できなくて、自分にはレスリングしかないなっていう感覚もあります。だからこそ、スパーリングで技がかかった時とか、試合で勝った時、自分が想像していた動きがうまくできた時はすごく楽しいです。
常に自分はチャレンジャー。試合前は頭を空っぽにしてマットへ上がる。
ーーー感覚で動くタイプの人が試合の前に緊張したり恐怖心を持ったりすることがあるのかということを知りたいのですが、試合前はどんな気持ちですか?

緊張はします。毎回普通にします。
でも、いつも「相手の方が絶対に強い」と思って、自分はチャレンジャーだという気持ちで試合に臨みます。
ーーー試合直前、シングレット姿になって「これからマットに上がる」という瞬間は何を考えていますか?
あんまり何も考えていないです。「やるか」みたいな感じですね。
考えすぎると頭の中がパンパンになってしまうので、できるだけ考えずに入るようにしています。その方が自分らしく動ける気がするので。
オリンピックで金メダルを獲る。そのために今、足りないものを一つずつ埋めていく。
ーーー須田選手の最終的な目標を教えてください。
最終的には、オリンピックで金メダルを獲ることです。そこはずっと持っています。
ーーーオリンピックを意識し始めたのはいつ頃ですか?
小さい頃から「オリンピックに行きたい」とは言っていたんですけど、その頃はまだ言葉だけだったと思います。
ちゃんと意識し始めたのは中学生くらいです。日本の選手がオリンピックで優勝しているのを見て、「かっこいいな」と思ったのがきっかけでした。あとは全中で優勝したあたりから、現実的に意識するようになりました。
ーーーオリンピックを目指す中で、今取り組んでいることは何ですか?

今は本当に足りない部分を補っていくことに取り組んでいます。
最近階級を上げたので、まずは体の大きさで負けている部分もあるし、体力面でもまだ足りないところがあります。そういうベースの部分をしっかりつけていくことが今は一番大事かなと思っています。
まずそこを埋めて、その上でライバルたちにどう勝っていくかを考えていきたいです。
レスリングは人生の一部。しんどさも含めて、自分の競技人生をつくっていく。
ーーー最後に、須田選手にとってレスリングはどんな存在ですか?

人生の一部ですね。
楽しいかと言われると簡単には言えないところもあるんですけど、そっちに近いとは思います。練習はきついし、しんどいと思うことも今でもあります。でも、大きくなってから「辞めたい」と思ったことはそんなにないです。
苦しいこともあるけど、その中で技がかかった時や、自分のいい動きが出せた時の感覚はやっぱり特別です。そういうものも含めて、レスリングは自分の人生の一部なんだと思います。
須田宝選手のSNS
Instagram:@takarasuda61
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