レスリング選手

【橋本千紘】レスリングがなければ今の自分はいない。強さを魅せて「女子プロレス=橋本千紘」の実現に挑む。

皆さんは女子レスリング出身のプロレスラーを何人ご存知でしょうか?実は今、仙台から日本一を目指す女子プロレスラーがいます。

その名も橋本千紘さんです。

橋本さんは日本大学レスリング部出身で、レスリング選手としても数多くの成績を残しています。

そんな中で、なぜ女子プロレスに転向し、多くの団体が関東に拠点を置く中、地方の団体を選んだのでしょうか?今回は橋本さんにインタビューをし、その真相に迫りました。

橋本千紘さんのプロフィール

  • 福井県出身
  • 安部学院高・日本大学 卒業
  • センダイガールズプロレスリング所属
  • 2013年全日本選手権 3位
  • 第2代、第4代、第6代、第8代、第10代センダイガールズワールドチャンピオン
  • 第7代、第10代、第14代、第16代センダイガールズワールドタッグチャンピオン
  • 第38代KO-D6人タッグ王座
  • 第36代OZアカデミー認定タッグ王座
  • 2016年 東スポプロレス大賞 新人賞
  • 2015年 週刊プロレスグランプリ 新人賞

プロレスラーになるために始めたレスリング。半年だけのつもりが大学卒業まで続けることに。

ーーー橋本さんはどのようなきっかけでレスリングを始めることになったのでしょうか?

レスリング時代の橋本千紘さん
レスリング時代の橋本千紘さん

元々は、小さい頃からずっとプロレスラーになりたかったんです。

その夢を叶えるべく、15歳でプロレスラーになるための試験を受けたところ、合格することができました。でも、格闘技経験がなかったので、「柔道かレスリングをやっておいた方がいいよ」とアドバイスをいただきました。レスリングを始めようと思ったのはこれがきっかけです。

たまたま実家の近くに福井レスリングクラブという道場があったので、そこでレスリングをやることにしました。

中学卒業と同時にレスリングも辞めてプロレスラーになるつもりでしたが、クラブの同級生に安倍学院に進学する子がいて、その子に会うために高校の先生が道場にいらっしゃったことがあります。その時に「お前もどうだ?」と声を掛けて頂いて。

プロレスのためにレスリングは半年間だけやるつもりだったのですが、悩みに悩んで、高校に進学してレスリングを続けることにしました。

ーーープロレスラーになるためのレスリングだったんですね。半年だけやろうと思っていたとありましたが、なぜ大学卒業まで続けることになったのでしょうか?

実は、大学に進学する頃にはプロレスへの夢はほとんど無くなっていて…。周囲の人たちがオリンピックを目指して頑張っている環境にいて、私自身もレスリングをひたすらに頑張るようになり、自然とオリンピックで世界を目指したいと思うようになっていました。

それに、毎日の練習が本当にハードで、練習が終わってからプロレスを観る余裕もなかったんですよね。そんな背景から、大学でもレスリングを続けようと思い、日本大学に進学しました。

大学卒業後、昔の夢が舞い戻りプロレスラーへ。憧れの人が立ち上げた団体「仙女」へ入団。

ーーーレスリングに夢中になっていたのですね。その中で、またプロレスラーを目指そうと思ったのはどんなきっかけがあったからでしょうか?

仙女入団当初の橋本千紘さん
仙女入団当初の橋本千紘さん

大学4年生でレスリングを引退してから、久しぶりにプロレスを観に行ったんです。そこで里村明衣子さん(センダイガールズプロレスリング代表)や、昔からずっと観ていたプロレスラーが活躍していて、その光景を見て「ああ、やっぱりプロレスっていいな」と思いました。

その後、ご縁があって里村さんと食事をご一緒させていただくことになりました。そこで里村さんに「まだプロになる夢を諦めていないなら、なって欲しい」と言っていただいたんです。その瞬間、その場で、誰にも相談せずに「なります!」と二つ返事で決めちゃいました(笑)。

プロになろうと再び決心してからは「やっぱり私がやりたかったことはこれだ」とすごくしっくり来た感じがしましたね。

ーーー今では女子プロレスも盛り上がりを見せていて、いくつか団体があると思います。その中で仙女を選んだのはなぜですか?

橋本千紘さんと里村明衣子さん
里村明衣子さん(写真左)とのツーショット

昔から「ガイアジャパン」という団体をテレビで見ていて、すごく魅力的な団体だったので、しかも、里村さんもその団体に所属していたのでそこに憧れていました。でも、2005年に解散してしまったんです。

その後、私が中学生くらいの頃に里村さんが「仙台に新しい女子プロレス団体を旗揚げします」と言って立ち上げたのが仙女で。私の中では他に選択肢はなかったですね。「ここに行こう」って当たり前のように思い、入団することにしました。

ーーー橋本さんから見て、仙女はどのようなチームですか?

仙女のメンバー
仙女のメンバー

今の女子プロレスは元アイドルの子もいて、キラキラした可愛い選手たちが主流になってきています。やっぱり観てもらう競技だからこそ、ビジュアルも大事な要素なのは間違いありません。

そんな中で、基礎から作り上げた強さがあって、バチバチの熱い戦いが見せられるチームが仙女だと思っています。

私自身、見るからに強そうで、格好いい選手に昔から憧れてきました。見た目だけでも「この人には敵わないな」って思わせるような。レスリング時代にキツいトレーニングをたくさんして身体を作ってきたからこそ、私も迫力的な部分でも魅せていきたいと思っています。

プロレスの土台はレスリングだと実感。高校・大学の7年間は遠回りでなく近道だった。

ーーー強くてかっこいい魅力的なチームですね。普段はどのようなトレーニングをされているのでしょうか?また、レスリングのトレーニングとの違いがあれば教えていただきたいです。

橋本千紘さんの鍛え抜かれた体
橋本千紘さんの鍛え抜かれた体

レスリング時代より体重は20kg近く増えました。でも増やそうと思って増えたわけではないですね。

レスリング時代の練習はランニングの量も多かったのですが、ランニングの量が落ちたことであまり体重が減らなくなりました。今はその分を筋トレに充てていて、筋トレの量がすごく増えたのと、食べる量も増えたので自然と身体が大きくなりました。

元々レスリングをやっていた男子選手もプロレスに転向してから体重が大幅に増えるので、そういう傾向があるんですかね。

あとは、レスリングみたいに相手の技を受けないように立ち回るのとは違い、プロレスは相手の技をしっかり受けなきゃいけません。身体が小さいと受け身も痛くなるので、衝撃から身を守るためにそうしてるのかもしれないですね(笑)。

レスリングの練習との違いで言うと、プロレスは受け身の練習を大切にします。さっきも言ったように、技を受けないようにするレスリングとは違って、プロレスは受けなきゃいけないので、受け身ができないと怪我をしてしまいます。

私もプロレスに転向してきて1番苦労したのが受け身でした。レスリングでは真後ろに倒れて受け身を取ることはほとんどなかったので、特に後ろ受け身は慣れるまで怖かったですね。でも、受け身を徹底的にやると、技を受けた時に痛いけど怪我もしにくくなります。

ーーープロレスのトレーニングに取り組む中で、レスリングをやってきて良かったと思うことはありますか?

インタビュー中の橋本千紘さん

やっぱり体力には自信があります。最初は基礎体力を作るトレーニングが多くてすごくキツかったんですけど、レスリングをしてなかったらもっとキツかったと思います。

技術的な面では、やればやるほどプロレスの基礎はレスリングだと実感しますね。タックルに入る動作、バックに回る動作なども、レスリング時代から何度も繰り返しやってきたお陰で体に染み込んでいるので、無駄がなく綺麗にできます。レスリングをやっていなかったらこうはなっていないと思います。

あとは相手の動きが感覚で分かったりとか。「私がこう動いたら相手はこう動く」とか「相手がこう来たらこっち側に腰を切る」みたいなのってレスリングをしてると無意識に分かるけど、レスリングをしていない人にとっては難しい部分がたくさんありますね。

そういうものを身に付けないまま15歳でプロになっていたら、こんなに早くチャンピオンになることもなかったし、それどころかここまで続けられなかったかもしれません。

15歳でプロになるはずが、高校・大学とレスリングに費やして7年遅れてのプロ入りでした。でも、今になってみるとそれは遠回りではなく、強くなる近道だったんじゃないかと思ってます。

レスリングと鍛え上げた体は”橋本千紘”の証。コスチュームで個性をアピールできるのもプロレスの魅力。

ーーー橋本さんといえばレスリングのユニフォームのようなコスチュームが印象的です。やはりレスリングを意識されているのでしょうか?

コスチューム姿の橋本千紘さん
レスリングのユニフォームをモチーフにしたコスチューム

そうですね。

ずっとシングレット風のコスチュームとレスリングシューズを使っています。私の中で「レスリングをやっていた」と言うのは絶対に残したい部分です。それに、レスリングのシングレットって格好いいし、鍛えているからこそ似合うものだと思っています。「着るからには鍛えないと」とも思いますね。せっかく鍛えた身体なので、見せていきたいです。

そして、コスチュームは選手によって違うデザイナーさんに依頼していて、完全オリジナルです。プロレス専門のデザイナーさんも多いんですけど、私は専門じゃない人にデザインしてもらっています。

ガウンは「怪物」をテーマにデザイナーさんにお願いしました。カラフルですごく目立つし、とても気に入ってます!

やっぱりこういう部分ひとつとっても「どんどん人とは違うことをして目立っていかなきゃ」と思ってこだわるようにしています。 

ーーーコスチュームもプロレスならではの醍醐味ですよね。コスチュームも含め、プロレスならではの面白さがあると思います。橋本さんから見るプロレスの面白さはどのようなところにありますか?

プロレスの試合で華麗な技を魅せる橋本千紘さん

やっぱりプロレスは派手ですよね。ビジュアル的にも迫力があるし、マットのバーン!っていう音もあります。

やっている側としては、四方にお客さんがいて、どの角度からも見られているというのをすごく意識します。どの角度から技を観られてもいいように試行錯誤したり、「ここを写真に収めて欲しい!」と意識した見せ方をしたり、選手側にはそういう面白さがあります。

お客さんにとっては、プロレスラー一人ひとりのキャラクターやストーリーもあって感情移入もしやすいと思います。見どころがたくさんあるのがプロレスの魅力ですね。

今は試合が楽しい。自分を表現し、プロレスの魅力を伝えたい。

ーーー確かにレスリングにはない面白さがありますね。レスリングとプロレスとで試合に向かう前の気持ちに何か違いはありますか?

インタビュー中の橋本千紘さん

レスリング時代は「負けたらどうしよう」という気持ちが強かったように思います。自信がなかったのかな…。試合が怖いし、嫌だなと思うことが多かったです。

プロレスに転向してからも、最初のうちは大事な試合の前は怖い気持ちもありました。でも、ここ数年でやっと楽しいと思えるようになりました。「今日はこの人と戦える!」とか、「今日はこの会場でやれる!」とか。お客さんも場所によって違うし、一つひとつの試合に思い入れがあって、楽しみに思えることが多いです。

昔は自分のことで必死でしたが、今は「もっとたくさんの人にプロレスを見せたい」「もっと橋本千紘のプロレスを伝えたい」という気持ちが大きくなっています。そのためにどうやって伝えていくか、どうやったら伝わるかを考えながらやってますね。とにかく今は試合が楽しいです(笑)。

目標は女子プロレスで1番になること。子どもの頃に自分と約束した夢は必ず叶える。

ーーー最後に今後の目標や展望があれば教えていただきたいです。

プロレスラーとしての夢は本当にたくさんあります。年間女子プロレス大賞も獲りたいし、チーム200kg(橋本選手と優宇選手のタッグチーム)で海外でもたくさん試合がしたいです。小学校か中学校の卒業文集に「5冠チャンピオン」と書いたのですが、まだ最高で3冠しか獲っていないので、5冠チャンピオンになって夢を叶えたいです。

あとは仙女をもっと大きくして、毎大会満員にしたいですね。プロレスのチームって仙女以外は関東にあって、地方のチームって仙女だけなんです。地方から日本一になりたいですね。

そして、最終的にはとにかく女子プロレスの1番になること。「女子プロレス=橋本千紘」になりたいです。

橋本千紘さんのSNSアカウント

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