レスリングが大好きで、練習も好き。自分を追い込むことにさえ生きている実感があると語る荻野海志選手は、競技に対してまっすぐであると同時に、冷静に自分自身を見つめ続けている選手でもあります。
小学生の頃から本気でレスリングに向き合い、埼玉栄中高でオリンピックを現実の目標として意識し、山梨学院大学で競技の奥深さにのめり込んでいった。
勝つためにただがむしゃらに取り組むのではなく、ノートに感覚を書き留め、映像を見返し、心の状態まで言語化しながら、自分にとってより良いレスリングを探し続けています。
最終的なゴールは決めない。レスリングに追われるのではなく、自分がレスリングを追いかけていたいから。今回はそんな荻野海志選手に、レスリングとどう出会い、どう好きになり、どんな選手を目指しているのかを聞きました。
荻野海志選手の経歴
- 埼玉県出身
- 4歳からレスリングを始める
- 埼玉栄中高卒業
- 山梨学院大学卒業
- 現在は大東建託株式会社所属
- 2024年全日本大学選手権 優勝
- 2024年U23世界選手権 2位
小学生の頃から本気で向き合い、オリンピックを意識し始めた埼玉栄での6年間。
ーーー現在もより高みを目指してレスリングに取り組まれていると思うのですが、そもそも「レスリングを本気で取り組もう」と思ったのはいつ頃ですか?

小学生の頃からですね。
当時はあまり負けることがなくて、自分の中では早い段階で「これからもレスリングを本気でやっていこう」と決めていました。
その気持ちがさらに強くなったのは、小学6年生の終わり頃に埼玉栄中高の練習へ行ったときです。先輩たちの練習量や熱気が本当にすごくて、「ここでレスリングをやろう」と直感的に思いました。
そして、埼玉栄で過ごした6年間は、オリンピックという舞台をより真剣に意識するようになった時間だったと思います。
レスリングがないと生活が楽しくない。仲間との出会いと山梨学院大学で知った競技の奥深さ。
ーーーそんな早い段階から本気で取り組んでいたんですね。荻野選手のことをSNSで拝見したり、実際に試合を見たり、高橋侑希コーチからお話しを聞いたりしたんですけど、荻野選手ってレスリングめちゃくちゃ好きですよね?
レスリング大好きですね。
練習も大好きですし、自分を追い込むことも好きです。レスリングがないと生活が楽しくないくらい、レスリング中心で生きている感覚があります。
ーーーいつからそんなにレスリングが好きになったんですか?
埼玉栄中学に入学した頃からです。
それまでは、やっぱり「やらされるもの」という感覚もありました。今みたいに、心の底からレスリングが好きだと言える状態ではなかったと思います。
でも埼玉栄に入って、たくさんの仲間と出会って、「レスリングをやることでこんな繋がりが生まれるんだ」と感じるようになりました。そういう出会いも含めて、レスリングがどんどん好きになっていきました。
中高時代は、レスリングを通じて人と繋がれることに魅力を感じていましたが、競技そのものに深くのめり込んだのは山梨学院大学に入ってからだと思います。
ーーー大学で何が起こったのでしょうか?

山梨学院大学というレベルの高い環境に入って、「レスリングって簡単には勝てないんだな」ということを改めて知ったんです。
それと同時に、技術や考え方の細かい部分、競技としての奥深さに触れて、「自分の知らない世界はまだまだたくさんあるんだな」と気づくことができました。それが、レスリングそのものにのめり込んでいった大きなきっかけだったと思います。
ーーーそんな山梨学院大学でレスリングを4年間取り組んできたと思いますが、まだレスリングの知らない部分や奥深さはありそうでしょうか?
まだたくさんあると思います。
大学4年間やってきても、インカレは結局一度も優勝できませんでした。まだまだ思うように勝てていないということは、それだけ自分に伸びしろがあるということです。
だからこそ、レスリングは攻略しがいがある競技だと感じています。これから先も、まだ知らない部分や新しい気づきにたくさん出会えるんじゃないかなと思っています。
試合は勝つためだけじゃない。さまざまなスタイルを吸収し、自分のレスリングを磨き続ける。
ーーー荻野選手のレスリングは何回も見たことがあるんですけど、一貫した芯を持ちつつも、時期や大会ごとに変化がある気がします。何かレスリングスタイルで意識していることはありますか?

ロシアの選手のような柔らかいカウンターを意識することもあれば、アメリカの選手のような直線的な動きを意識することもあります。
日本の選手は組み手が強い印象がありますが、自分は組み手が特別得意なタイプではないので、いろんな国のいろんな要素を取り入れたスタイルが自分には合っているのかなと思います。
特に大学に入ってからは「この試合では何を試すか」を決めて試合に出ることが増えました。もちろん勝つことは大前提です。でもそれと同時に、試合を通して自分のレスリングを磨くことも大切にしてきました。
「試合で勝つためだけ」というより、「試合の中でどんなことを試し、どんなレスリングをしたいのか」を明確にしてマットに上がることが多いです。
ノートと映像で自分を言語化する。プレッシャーを超えるために見つけたレスリングとの向き合い方。
ーーー日本にはたくさんのライバルがいると思います。そのライバル達に勝っていくためにも今意識しているや取り組んでいることはありますか?

細かい練習内容や練習中の感覚を毎日ノートに書いています。加えて、練習中の動画を撮って、あとから見返して、自分のレスリングを第三者目線で振り返るようにしています。
そこで得た気づきと、自分の感覚をすり合わせながら、もう一度言語化していくという作業はずっと大切にしています。
あとは、練習も含めてマットに上がる時間を、いかに自分にとって気分が上がる時間にできるかということも意識しています。
大学4年生で主将を任せていただいたときは、プレッシャーからマットに上がるのが怖くなることもありました。そういうときは、どうしても動きが硬くなってしまうんです。
練習では良い動きができるのに、試合になると硬くなる。それなら、変えなければいけないのは技術だけではなく、心の向き合い方なんじゃないかと思いました。
だから、レスリングを「やらなければいけないもの」ではなく、「自分がどんどんやっていきたいもの」として捉え直すようにしました。毎日、自分が何をやりたいのかを決めて取り組むことが、今の自分にとってすごく大事なことです。
ーーーお話を聞いていると自分のことを深く理解されているように感じたのですが、「気分が上がるような工夫をしなければいけない」など、自分のことに感じてどのようにして気づくことができているんですか?
山梨学院大学で主将になってから、マットに上がるときに「レスリング、あまり楽しくないかもしれないな」と感じる瞬間が増えてきたんです。
でも大学卒業後も社会人として続けるなら、自分が好きでやっているはずのレスリングをただ苦しいものにしてしまうのは違うなと思いました。
だから、レスリングを「勝たなければいけないもの」ではなく、「自分がやりたいこと」として捉えるようにしたんです。ゲームみたいに、自分からどんどん向かっていける感覚でマットに上がれたらいいなと。
そう考えるようになってからは、プレッシャーに押されるのではなく、自分がレスリングを楽しむためにどう向き合うかを意識できるようになりました。
勝ち負け以上に「どんなレスリングがしたいか」。試合前に心を整える準備。
ーーーたしかに、「やりたい」と思える状況が一番ですよね。これまで国内外問わずたくさんの大会に出場されてきたと思います。試合のマットに上がる直前はどのようなことを考えていますか?

最近は、勝ち負け以上に「この試合でどういうレスリングがしたいか」ということを考えてマットに上がっています。
少し前までは、心が定まらないままマットに上がっていた時期もありました。そうすると、集中しきれなかったり、自分のパフォーマンスを出し切れなかったりすることがあったんです。
だから今は、目の前の一試合で自分がどういう動きをしたいのか、どんなレスリングをしたいのかを明確にしてからマットに上がるようにしています。
ーーーでは試合直前での練習ではどのようなことを考えて取り組まれていますか?
試合前だからといって、基本的にやることは変わりません。
毎日ノートにその日に感じた感覚や課題を書き出して、やるべきことを淡々と、徹底的に積み重ねていくだけです。
そのうえで試合直前は、より実戦に近い内容にフォーカスしていきます。試合でやりたいことを整理して、それを確かめるように練習するイメージです。
ゴールは決めない。レスリングを追いかけ続け、その先で目指す選手像。
ーーーありがとうございます。ここまでたくさんのお話しを聞かせていただきましたが、荻野選手が目指す最終的なゴールはどのようなものでしょうか?

実は、最終的なゴールは決めていないんです。ゴールを決めすぎると、レスリングに追われているような感覚になってしまう気がして。
自分はレスリングが大好きで、ずっとレスリングを追いかけていたい人間です。だからこそ、最終的なゴールはあえて作らないようにしています。
その道中に、オリンピック優勝や世界選手権優勝といった成し遂げたいことを一つひとつ叶えていけたらいいなと思っています。
そして最後は、「レスリングをやってきてよかった」と思えるようなマットの降り方ができたら幸せです。
ーーー「ゴールを決めない」。荻野選手がずっとレスリングをしていたい気持ちが伝わってきます。最後に荻野選手がこれからどんなレスリング選手を目指していくか教えていただきたいです。

楽しく生きて、応援してもらえるような選手になりたいです。
これまでのレスリング人生では、苦しいこともたくさん経験してきました。だからこそ、これから先は、人との出会いに恵まれながら、この競技を最大限楽しめる人生にしていきたいと思っています。
そして、どんなときでも「応援したい」と思ってもらえる選手になっていきたいです。
荻野海志選手のSNS
- Instagram:kaijiogino
- YouTube:KO65 wrestling
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