レスリング選手

【湯元健一】大阪からオリンピック選手を育てる。浪商学園で育てた選手をそのまま世界へ。

日本体育大学では、トップ選手にフォーカスして技術を伝えていたけど大阪体育大学ではそうはいかない。年代も、理解度も、レスリングの現在地も違う選手たちが、同じ空間で練習している環境で指導をするのが湯元健一さんです。

この1年で向き合ってきたのは、そうした環境の中で、自分がどう馴染み、自分の指導をどう浸透させていくかということでした。

最初は、選手一人ひとりの特徴をつかむだけでも簡単ではなかったといいます。それでも、少しずつ全体に自分の考えが浸透してきた実感があり、いまは毎日の指導そのものが面白い。トップの現場を知る人が、この場所で何を見て、どんなふうに伝え、どんな流れをつくろうとしているのか。大阪体育大学という独特な育成環境の中での1年とその先に見ているものを聞きました。

湯元健一さんのプロフィール

  • 和歌山県出身
  • 日本体育大学 卒業
  • 元ALSOK所属
  • 2008年北京オリンピック フリースタイル60kg級銅メダル(2017年に銀メダルを獲得した選手のドーピングが発覚し銀メダルに繰り上がり)
  • 2012年ロンドンオリンピック出場
  • ナショナルチームヘッドコーチ
  • 日本文理大学、日本体育大学での指導を経て、現在は大阪体育大学で監督して指導をしている

大阪からオリンピック選手を育てる。その流れをこの場所でつくりたい。

ーーーこれまで日体大や日本代表の現場も経験されてきた中で、なぜ大阪体育大学で指導をしようと思われたのでしょうか。

「学園で育ててきた選手を、そのまま学園でうまく育てていって、大阪からオリンピック選手を育てる」。大阪体育大学にそのような夢や目的があって、僕がここに呼ばれたのだと思っています。

浪商高校で育ってきた選手がその先で学園に残らず別の場所へ進んでいくのはやっぱりもったいない。中学、高校で積み上げてきたものを大学でも続けて見ていける流れをつくれたら、大阪からもっと大きな選手を育てていけるはずだと思っています。

ーーー実際に来られてからの1年は、どんな時間でしたか。

1年は本当にあっという間でした。自分自身がこの環境に浸透していくことと、自分の指導を浸透させていくこと、その両方をずっと考えていた1年でしたね。やっと少しずつ、全体に浸透してきたかなという感覚があります。

ーーーその中で、2年目となる今見えてきたものはありますか。

最初は、選手一人ひとりの特徴を覚えるだけでも大変でした。ただ、今はそれがだいぶ見えるようになってきて、毎日の指導が本当に面白いです。

ここに来て思うのは、中高大それぞれに、人それぞれのレスリングスタイルがあるということです。しかも、まだ強烈に固定された伝統的なスタイルがあるわけではない。だからこそ、自分がこれまで培ってきたメソッドやスタイルを、無理に自分色に染めるのではなく、徐々に浸透させていくことを考えています。

理想を押しつけない。選手をリスペクトする。相手に合わせた指導でさらなる強化を図る。

ーーーこれまで日体大やナショナルチームの指導もされてきたと思います。日体大やナショナルチームの現場と、今の大阪体育大学での指導とでは、求められるものもかなり違うのではないでしょうか。

かなり違いますね。日体大の時は、本当にトップ選手にフォーカスして技術指導をしていました。しかし、ここではそれができない。

日体大や代表の現場でやっていたのは、すでに高いレベルにある選手の良さをさらに磨き上げる仕事でした。相手やライバルへの対策を考えることもあれば、自分では気づいていない細かい乱れや、崩れている部分を見つけて伝えることもある。99を100にしていくような指導だったと思います。

ーーートップ選手を指導することにも難しさはあると思います。どのようなことに難しさを感じていましたか?

トップアスリートは完成度が高い分、言われすぎることを嫌うところがあります。だからこそ、何をどこまで伝えるのか、その見極めにはすごく気を使います。

大事なのは、まずその選手をしっかりリスペクトすることだと考えています。自分より実績もあるし、明らかに強い選手だという前提で見る。そのうえで、常に客観的に観察しながら、本人がまだ気づいていない処理の仕方や細かいポイントを伝えていく。完成された部分を崩さないことを第一に考えると、やっぱりその選手へのリスペクトがすごく大事になってくると思っています。

ーーー逆に、大阪体育大学の今の環境ではどのような難しさがありますか。

一番大きいのは伝え方ですね。中高大でやっているので、どこに的を絞ればいいのかが難しいですし、全体に向かって指導することも多い。高校生向けに教えたら中学生には難しいし、中学生向けに教えたら高校生には物足りない。そのバランスはすごく難しいです。だから今は、大学生も含めて、初心に返るようなことや、基礎、考え方の部分を改めて丁寧に伝えるようにしています。

ーーー伝え方の面で特に意識していることはありますか。

すごく噛み砕くようにはしています。ただ、「これくらい分かるだろう」というニュアンスで伝えても、実際には伝わっていなかったりする。逆に、噛み砕きすぎてしまってそこまで言わなくてもよかったかなとなることもある。そのバランスは、自分の中でも難しかったですね。

ーーー日体大、ナショナルチーム、大阪体育大学などいろいろな現場を経験してきた今、指導で変わらず大事にしていることは何でしょうか。

選手に自分の理想を追い求めすぎないことだと思っています。もちろん理想はあるんですけど、選手によってスタイルは違うし、どの大会を狙っているかによっても違う。だから、一方的にこうあるべきだと押しつけるのではなく、その選手にとって何が必要かを見ながら考える。そこはずっと大事にしていることですね。

強い選手はただ鍛えているのではない。相手を攻略することを考え続けている。

ーーー湯元さんはこれまでトップ選手も数多く見てこられたと思います。その経験から、強い選手、強くなる選手に共通しているものはどのような部分にあるとお考えですか。

やっぱり、自分の考えをしっかり持っていることと、相手を攻略することをすごく考えていることですね。その考えているレベルが、めちゃくちゃ高いんです。

例えば今のトップ選手で言っても、樋口黎選手、清岡幸大郎選手、青柳善の輔選手、高橋海大選手など、そういう世界で活躍する人たちは自分を強化することはもちろんなんですけど、やっぱり「対誰々」「対誰々」というのを頭の中で考えている。その考える量も深さも僕の想像しているよりたぶんはるかに多いです。相手に対してどうするかを本当に考えてレスリングをやっていると思います。

ーーー湯元さん含め、トップ選手はレスリングそのものをどう捉えているとお考えですか?

僕自身、レスリングはある意味ゲームみたいなものだと思っています。どう相手を攻略するかを考える競技です。だから、興味があって、面白い・楽しいと思えれば、辛いこともたくさんできると思うんです。僕が指導をする際はそこをすごく大事にしています。

だから普段の練習は明るくやる。でも、スパーリングと試合になったら本気でやる。そのメリハリはすごく大事だと考えています。トップ選手ほど、そういう明るさとか、楽しむことをうまく取り入れている印象があります。

ーーーそういう考える力はどうすれば育っていくのでしょうか。

指導者がちゃんと「考えてレスリングをやろう」と伝え続けることだと思います。今は映像もたくさんあるので、その映像を活用することも大事です。そういうことを常日頃からやっていけば、やっぱり強くなる。考える習慣を積み重ねていくことが大切だと思います。

中学生から大学生まで同じマットで育つ。大阪体育大学にしかない強化のかたち。

ーーー大阪体育大学のレスリング部は、中学・高校・大学が一体となって活動しているのが大きな特徴ですよね。

そうですね。中高大でやっていることが大きな特徴だと思います。

ここに来て感じるのは、選手それぞれのレスリングスタイルがあることです。そして、ものすごく大きな伝統的スタイルが固まっているわけではない。だからこそ、自分がこれまで培ってきたメソッドやスタイルを徐々に浸透させていける余地があると感じています。

もちろん、自分色に染めるというよりは、それぞれの選手や環境を見ながら浸透させていく。そういう意味では自分にとってもすごく面白い場所だと思っています。

ーーー中高大一貫の流れの中で、浪商中学・高校の選手たちにはどんな特徴を感じていますか。

今、浪商高校にいる選手たちは、ほとんどが中学校から上がってきています。もちろん外から来ている選手もいますけど、中学から私立に入って、わざわざレスリングをやるという時点で家庭の協力もすごいですし、本人の意識もすごく高い。家庭でも、学校でも、レスリングをやるという意識がものすごく高いですね。そういう環境の中で続けていること自体が、強さにつながっているんだと思います。

ただ、この中高大が同じマットで練習をするという環境を僕一人では到底回せません。中高の西尾先生、大学のGM、部長など、スタッフ全員でやっているからこそ成り立っています。

大阪からオリンピック選手を。学園で育てた選手を世界へつなげるために。

ーーーここから先、湯元さんは大阪体育大学でどんな選手を育てていきたいと考えていますか。

やっぱり、学園で育てた選手をそのまま学園で育てていきたいです。高校で育った選手が大学に進学してこない状況がこれまではあったので、そこはすごくもったいない。だからこそ、その流れをしっかりつくって、大阪からオリンピック選手を育てていきたいと思っています。

ーーーその先にはどのような目標も見えているのでしょうか。

夢物語かもしれませんが、ここからオリンピックの金メダリストを出したいです。

ーーー大阪や西日本のレスリング全体についてはどんなことを感じていますか。

学生レスリングの世界は、圧倒的に東のほうが主体になっているところがあって、それが根付いてしまっている部分はあると思います。でも、僕が見ている限り、西にもすごく強い選手、高い能力を持った選手もいるので、全然戦えるんですよ。だから、そこに対する自信を僕が全体にも伝えていきたいと思っています。

ーーーその未来に向けて、湯元さん自身はどんな姿勢で指導を続けていきたいですか。

自分自身で常に考え続けることですね。本も読みますし、他競技からも学びます。指導していても、いろんな場面で「これってどうなんかな」と困ることがあるし、人のレスリングを見ていても「こんな技があるんだ」と思うことがある。そういうものを、常に自分の中のデータとして持っておく。これまでの指導経験で感じたこと、学んだことも、こちらに還元していきたいと思っています。

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